コンクリートの調合強度における標準偏差の3σのシグマは1.73なのだろうか? なんだかよくわからなくなってきたので、前回の調合強度の話で出てきた計算式の1.73の意味を今回は深堀します。
前回の記事>>コンクリート調合強度計算における0.85の根拠と背景とは?
統計的な品質管理の核心に迫る
ということで、今回はコンクリート調合における「1.73」という数値と標準偏差(σ)の決め方について、詳しく調べていきます。
「1.73」は3σではなく「片側信頼限界係数」
まず、重要な誤解を解消しましょう:
[ 1.73は3σではありません。これは片側許容限界を求めるための信頼限界係数です ]
正確には:
- 3σは「3.0」です(3×標準偏差)
- 1.73は「正規分布における片側許容危険率5%に対応する係数」です
1.73の正確な意味と由来
この1.73という数値は、統計学の片側許容限界理論に基づいています :
- 片側許容限界の概念:自己中寒くなってきたよ寒い寒いどこ行くのいや寒いから来たのかな
- 測定値の95%が設計基準強度以上となる確率(不良率5%)を保証するための係数
- 正規分布表から、片側危険率5%に対応する値として「1.64」が基本値
- サンプル数による補正:
- 1.64は標本数が無限大の場合の理論値
- 実際の品質管理では有限のサンプル数しか得られないため、安全側に補正
- n=30程度(一般的な品質管理データ数)を想定して「1.73」と設定されています

1.73は「3σ」ではなく、コンクリート強度の95%が設計基準強度を満たすことを保証するための統計的係数です
標準偏差(σ)の決め方
標準偏差は、コンクリートの品質管理において最も重要な指標の一つです。具体的な決め方は以下の通りです:
1. 実績に基づく決定方法(最も推奨)
これが[ 最も信頼性の高い方法 ]です:
- 過去データの収集:
- 同一の製造条件(材料、設備、製造方法)で製造したコンクリートの圧縮強度データを収集
- 最低でも30個以上(理想的には50個以上)のデータを使用
- 標準偏差の計算:
σ = √[Σ(Xi - X̄)²/(n-1)]
- Xi: 各試験値
- X̄: 平均値
- n: データ数
- 継続的な更新:
- 通常、3〜6ヶ月ごとに新しいデータで更新
- シューハート管理図などで品質管理状況を継続的に監視
2. 初めての場合や実績がない場合
実績データがない場合は、以下の方法で決定します:
- JIS A 5308の標準値使用:
- 普通コンクリート: 3.0〜5.0 N/mm²
- 高強度コンクリート: 4.0〜6.0 N/mm²
- 強度レベルに応じた推定:
- 設計基準強度18〜27 N/mm²: 3.5 N/mm²
- 設計基準強度30〜36 N/mm²: 4.0 N/mm²
- 設計基準強度40以上: 4.5 N/mm²
- 変動係数による推定:
- 変動係数(V=σ/X̄×100)を用いて推定
- 一般的に普通コンクリートでは8〜15%程度
- 高強度コンクリートでは5〜10%程度

標準偏差は単なる仮定値ではなく、実測データから算出するのが基本です。これが調合設計の信頼性を高める鍵です
実務での標準偏差と1.73の活用方法
実際の調合設計では、標準偏差とこの1.73を以下のように活用します:
- 調合強度の算出:
Fm = Fc/0.85 + 1.73σ
- 品質管理の評価:
- 標準偏差が小さい(例:σ=2.5)⇒ 品質管理が優れている
- 標準偏差が大きい(例:σ=5.0)⇒ 品質管理に改善の余地がある
- 経済性への影響:
- σが1.0小さくなると、調合強度が約1.73 N/mm²低減
- これにより単位セメント量が減少し、コストダウンとひび割れリスク低減につながる
具体例:標準偏差の算出
実際の標準偏差計算の例を示します:
例: 過去30回の試験結果から標準偏差を算出
試験値: 31.2, 32.5, 33.8, 30.5, 31.9, ... (30個のデータ)
平均値: 32.0 N/mm²
標準偏差の計算:
σ = √[((31.2-32.0)² + (32.5-32.0)² + ... + (Xn-32.0)²)/(30-1)]
σ = 3.2 N/mm²
この場合、調合強度は:
Fm = 30/0.85 + 1.73×3.2 = 35.3 + 5.5 = 40.8 N/mm²
となります。

標準偏差の数値は抽象的に見えますが、実際には具体的なデータから計算された、品質管理の精度を示す重要な指標なのです
標準偏差を小さくするための具体的方法
実務では標準偏差を小さくすることが非常に重要です:
- 材料管理の徹底:
- 骨材の粒度や含水率の変動を最小化
- セメントの品質の安定化
- 計量精度の向上:
- 特に水とセメントの計量精度を高める
- 定期的な計量器の校正
- 製造工程の標準化:
- 練混ぜ時間の一定化
- 温度管理の徹底
- 統計的品質管理の導入:
- シューハート管理図による異常値の早期発見
- データの継続的分析と改善

標準偏差を小さくすることは、単にコスト削減だけでなく、構造物の品質と信頼性の向上にも直結します
まとめ
- 「1.73」は3σではなく、片側許容限界係数(不良率5%に対応)です
- 標準偏差は過去の実績データから計算するのが基本です
- 標準偏差を小さくする努力が品質向上とコスト削減に貢献します
コンクリートの調合設計において、統計的な考え方を理解し、適切に標準偏差を決定・管理することは、高品質なコンクリート構造物を経済的に実現するための基本です。

統計的品質管理の本質を理解することが、コンクリート技術者の技術力向上の鍵となります
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