調合強度計算において設計基準強度を0.85で割る時の0.85と、あるコンクリートの強度のテストピースの結果が3つのうちの1つは設計基準強度の85%以上であって、3つのテストピースの平均値は設計基準強度以上である必要がある、というこの場合の85%とは意味が違うということが分かりました。
そこで疑問です。設計基準強度を85%で割り戻せば、なぜその下限値がだいたい設計基準強度以上になると考えることができるのでしょうか。
そのあたりを本日は深掘りしたいと思います。
*この話の前段の話はこちら >>
なぜ「0.85」で割るのか?その歴史と理論
「0.85で割る根拠」と「なぜ0.9や0.8ではなく、0.85なのか」という疑問点は、コンクリート技術の歴史と統計的な考え方に関わる重要な疑問です。1回で予備強度の85%以上
「0.85」はJISの考え方か?
[ 「0.85」は単なる慣習ではなく、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の合格判定基準に基づいています ]
- JISにおける明確な規定:
- JIS A 5308では「1回の試験結果が呼び強度の85%以上であること」を明確に規定しています
- この「85%」が調合強度計算での「0.85」の直接的な根拠となっています
- 国際的な基準との整合性:
- この85%という値は、日本だけでなく国際的にも広く採用されている値です
- たとえばACI(米国コンクリート工学協会)の基準でも同様の考え方が採用されています

JISの85%という基準は、統計的な検討と長年の実務経験に基づいて定められた値なのです!
なぜ「0.9」や「0.8」ではなく「0.85」なのか?
この「0.85」という数値が選ばれた理由には、理論的な裏付けと実用面でのバランス があります:
- 統計的な検討に基づく値:
- コンクリート強度は正規分布に従うと仮定されます
- 平均値の約15%下(平均値×0.85付近)が、標準偏差1個分程度に相当すると経験的に判断されています
- つまり、「平均値の85%」という基準は、強度のばらつきを統計的に考慮した結果なのです
- 安全性と経済性のバランス:
- 0.8などより小さい値にすると、過度に安全側の設計となり経済性が低下します
- 0.9などより大きい値にすると、不合格となるリスクが高まりすぎます
- 0.85は長年の経験から、このバランスが最も適切な値として選ばれています
- 実際の不良率との関係:
- 0.85という値は、コンクリート生産における許容不良率(約5%程度)と統計的に整合する値です
- これは実際の生産現場での品質管理のしやすさも考慮されています

0.85という値は、統計理論と実務上の要請から導き出された「バランスの取れた最適値」なのです
許容不良率
許容不良率(約5%程度)とは、製品や工事などの品質管理において、許容できる不良品や欠陥の割合を指します。
🔹 具体的な意味
- 許容不良率 = 許容できる不良品の割合
→ たとえば、「許容不良率が5%」の場合、100個の製品のうち 最大5個までは不良品があっても許容範囲という意味です。
🔹 どこで使われる?
- 製造業・工業
- 工場での生産ラインで、不良品がゼロでない前提で品質基準を決める
- 例:電子部品の不良率を5%以下に抑える
- 建設・土木
- コンクリートや鉄筋の強度・寸法の誤差を許容範囲内に収める
- 例:鉄筋の配置ずれが5%以内なら許容
- 食品・医薬品
- 異物混入や成分のばらつきを一定基準内に抑える
- 例:食品の重量誤差が5%以内ならOK
🔹 なぜ許容するの?
- 完全なゼロ不良は現実的に困難
- コストと品質のバランスを取るため
- 技術的・法的な基準をクリアする範囲を決めるため
👉 要するに、「多少の不良は許容するけど、一定の範囲を超えたらダメ!」という考え方ですね。
実務上の重要性
この「0.85」による割増しは、単なる数式上の操作ではなく、実際の品質管理において重要な意味を持ちます:
- 標準偏差と組み合わせた安全率:
- 調合強度=設計基準強度÷0.85+1.73×標準偏差
- この式により、統計的に99%以上の確率で不合格を回避できる調合強度が得られます(85%でわりもどすことで100個中、5個の不良品が出る確率となります。これにより、3つのピースが同時に設計基準強度以下になる確率はほぼ0にちかくになります。さらに、品質管理の状況により、1.73x標準偏差の数字分、目標強度をあげることでさらんい不合格を回避できることとなります。)
- 品質管理の指標としての役割:
- 0.85による割増しは一定ですが、標準偏差による割増しは品質管理レベルによって変化します
- これにより、品質管理を改善することでコスト削減のインセンティブが生まれます

0.85という数値は単なる慣習ではなく、統計的な根拠と長年の経験から導き出された信頼性の高い値です
世界的な視点
興味深いことに、世界の各地域でもコンクリート強度の判定基準は若干異なります:
- 欧州規格(EN): 一部の規格では95%下側許容限界値が採用されています
- 中国の規格: 85%と類似した基準が採用されています
- その他の国々: 80%~90%の範囲で様々な基準が採用されています
しかし、日本のJISで採用されている85%という値は、国際的にも広く受け入れられているバランスの取れた値といえます。
まとめ
「0.85」で割る理由は:
- JIS A 5308の合格判定基準「85%以上」に直接由来しています
- 統計的な考え方に基づいており、強度のばらつきを適切に考慮しています
- 安全性と経済性のバランスが最も取れた値として長年にわたり検証されています
この「0.85」という数値は、単なる慣習や恣意的な選択ではなく、コンクリート工学の知見と統計学の理論に基づいた合理的な値なのです。

調合強度の計算における「0.85」は、統計理論と実務経験のバランスから生まれた信頼性の高い数値なのです
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